顔面神経麻痺の治療


顔面神経マヒとは?

 急性の顔面神経マヒというのは、ある日突然顔の半分、あるいは一部分が思うように動かせなくなる状態のことをいいます。顔にはいろいろな神経がありますが、中でも顔面神経は、顔面の筋肉を動かす大事な神経です。この神経は脳を出てから耳の骨(側頭骨)の中を走行し、骨から外に出ると、耳下腺の中で眼、鼻、口唇に向かう3つの枝に分かれて、それぞれの筋肉に分布します。

 この神経に何らかの病気が生じると、顔面マヒが起きるわけです。

 このように、神経の走る道筋の大部分が耳の骨、耳下腺、顔面は、すべて耳鼻科の領域内にありますので、万一この病気にかかったら、まづ耳鼻咽喉科でよく原因を探す必要があります。そして早急にマヒと原因疾患の治療を始めなければなりません。治療が遅れるほどマヒの回復が悪くなるからです。

顔面神経マヒの症状:

 顔面神経マヒは通常、顔面のどちらか半分に起こります。症状は、顔の半分が意のままに動かないということで、その結果眼を閉じることができない、片方の口角が下垂する、口から水がこぼれる、などの現象がみられます。眼が閉じないために眼を痛めることは勿論、容貌に関わることなので非常にストレスになることでしょう。

 その他、この病気の症状として、マヒのある側の舌半分の味覚がなくなることや、涙の出が悪いことなどがあげられます。

マヒの原因:

 顔面神経マヒの原因にはいろいろありますが、一番多いのは、ベル麻痺とよばれる特発性のマヒです。これは明らかな原因がなくて急におきるもので、本態は循環障害による神経の腫れによると考えられています。次に多いのはヘルペスウイルスによる神経炎です。そのほか、頻度は高くありませんが中耳炎による神経炎や耳下腺の悪性腫瘍も原因となります。

治療方法:

 この病気の治療にはまず、原因を調べることが重要で、原因が分かればその治療を行うとともに、麻痺に対する治療をなるべく早期に開始することが必要です。

 ベル麻痺やウイルス性のマヒなど、急性の顔面神経マヒには、ステロイドとよばれるホルモン剤を早期に使用します。後者では、ヘルペスウイルスの特効薬であるゾビラックスという抗ウイルス剤を併用します。

 軽症のマヒの場合は2週間から4週間程度で回復します。最近は、重症のマヒでもステロイドの大量'点滴でかなり高率に回復することが分かってきました。ただし、回復には時間がかかり、完治する率は100パーセントではありません。

難治性のマヒをどうするか?

 2、3ヵ月を経過しても、まったく回復の兆しのないマヒでは、私共は、漫然と薬をのませるのでなく、思いきって顔面神経減荷術といわれる手術療法を行うことをすすめています。

 さきにも述べたように、顔面神経は硬い骨に囲まれて走行するので、炎症や循環障害により神経が腫れた場合、なかなかよくなり難いと考えられます。このような状態を改善して、マヒの回復を助けるために、耳の骨を削って、顔面神経を露出させ、腫れを消退しやすくする、というのが、この手術の内容です。(手術は全身麻酔で行うので痛みはありませんが、2週間程の入院が必要です)。

 これまで、国立札幌病院では難治性マヒ十数人に対して減荷術を施行しましたが、全員の患者さんで術後半年位で著明な回復をみております。