トピックス

1 頭頚部がんー治療法をどのように選ぶか
 がんといっても、病理学的にはいろいろな種類があります。その中で、頭頚部がんの大多数は”扁平上皮がん”というタイプのがんで、放射線治療がかなり有効です。早期がんは勿論、ある程度進行したがんでも放射線治療でがんが消えてしまうことも珍しくありません。 頭頚部は話す、食べる、呼吸をする、など生活のうえで極めて重要な機能を果たしている部位ですので、機能温存を考える上で放射線治療は有用です。
 ところで放射線治療にはどの位の日数がかかるでしょうか? 根治照射といって、放射線治療のみで治療する場合には通常6〜7週間を要します。

その後しばらく照射部位にやけどのような状態が続きます。 舌の縁や声帯に発見されたごく小さいがんは切り取ってしまえばあまり後の機能傷害もなく2週間以内に治ることでしょう。そこで、私共は、照射、切除のどちらでも完治しそうな小さいがんについては、治療期間と後の傷害の程度をよく説明して、患者さんご自身で決めていただくようにしております。
 しかし、ある程度進行した頭頚部がんでは、治療法には正直の所あまり選択の余地はありません。 まず放射線を優先しておこないますが、それですべて片ずくかというと、なかなか簡単にはゆきません。腫瘍のサイズが大きいと、照射で縮小はしても残存することがあるからです。そのような場合には、途中で方 針をかえて手術することになります。

 がんには再発と転移がつきものであります。頭頚部がんの転移は頚部のリンパ節にもっとも多いのですが、転移性リンパ節は可能なかぎり手術でとります。
 また照射で一旦消えた腫瘍が再発することもあります。その場合、もう一度放射線を使って治療することはできないので、手術が残された唯一の選択肢となります。

2 たばこと頭頚部がん
 頭頚部がんの多くは喫煙、飲酒などの生活習慣と深いかかわりがあり、なかでも喉頭癌は肺がんとともに喫煙によって発生するがんの代表として知られます。
 喫煙量をあらわすのにたばこ指数(Brinkman index)というものがあります。これは1日の喫煙本数と喫煙の年数をかけ算した値です。例えば50歳の方が、20歳の時から毎日たばこ20本を吸い続けた場合の指数は20x30で600とい うことになります。
 この指数が600を超えると喉頭癌のリスクがたかいとされています。
従って、若い時からたばこを吸っている中高年の方で、最近声がかすれてなかなか良くならない、だんだん悪くなってきた、などの症状があれば、ぜひ耳鼻 咽喉科で喉頭をみてもらうことをお勧めします。喉頭をみるには、喉頭ファイバースコープを用いますが、これは胃カメラの際の太いファイバースコープと違って鼻孔から簡単に入る細い管なので、麻酔もほとんどいらず、苦痛なく検査できます。また、喉頭のなかの様子はテレビのモニターで一緒に見ることもできます。   
 喉頭癌は全国統計でも、当院の統計でも、男女比が9〜10対1と、圧倒的に男性に多い癌ですが、女性の喫煙率の高い北海道ではそれなりに女性にも喉頭 癌が多いようです。
 喉頭癌は早期に発見されれば照射でも切除でも90%以上は治癒するので、その意味ではよく治るがんと言えましょう。

3 アルコールと頭頚部がん
 おなじ頭頚部がんの中でも、口腔内の癌や、のどから食道の入り口にかけて発生する下咽頭がんは飲酒と密接な関係があります。とりわけ、焼酎やウイスキーなどの強いお酒を長期間たしなんでいる方は、アルコール依存症、肝傷害などはもと より、上部消化管のがんについても高いリスクを負っています。
 日本人は欧米人に比べてアルコールに弱いといわれ、このことはいろいろな研究で証明されております。その理由として、日本民族は総じて、アルコールを 分解するのに必要なアルデヒド分解酵素の量が少ないことがあげられます。この酵素の多寡は個人差が大で、飲酒によって顔がすぐ赤くなるかどうかで容易に 分かります。その判定には、わざわざ酒を口にしないでも、消毒用のアルコール綿を5分程皮膚に当てておいて、その部分が赤くなるかどうかで簡単に分かり ます。
 ところで、酒をのむとすぐ赤くなる人と、平然としている人では、どちらががんになりやすいのでしょう?

 話は変わりますが、全国の独立行政法人国立病院機構に所属する病院(旧国立病院/療養所)では、どの病院がどのような疾患を取り扱うかがおおよそ決っております。その中で唯一、アルコール性の病気を専門に診療、研究しているのが久里浜病院ですが、その病院での最近の研究によれば、アルデヒド分解酵素 が欠損している人は、酵素を十分持っている人に比べて、なんと食道がんになるリスクは11.2倍、咽頭がんになるリスクは6.4倍であることが明らかになりました。
 この数値が物語ることは、下戸の酒好きは体に良くないということでしょう。しかし、酒が強く、いくらでも飲める人は当然飲酒の量も多くなることでしょうから、やはりそのために上部消化管の発ガンのリスクは高くなると思われます。いずれ にしても酒はほどほどに、ということでしょうか。

4 咽喉頭違和感

のどに何かある感じ、薬をのんだあと詰った感じがする、すこしのどがいたい感じがするなど、のどに関する違和感をお持ちの人は、少なくありません。のど、咽喉頭は神経が多く存在し、慢性的な刺激で知覚過敏などを起こしやすい部分ですので、必ずしも、がんの初期症状では、ありませんが、お酒やタバコをたしなまれる方は、とくに一度耳鼻咽喉科での診察をおすすめします。

5 逆流性食道炎

最近、のどの違和感の原因に、胃酸によるのど粘膜のただれが関係していることが、知られるようになりました。胃酸というと場所が離れているようにかんじますが、以外と知らないうちに、胃酸がのどまで逆流することがわかっています。いわゆる胸のむかつき、長期化する咳などの症状があるかは、胃酸による逆流性食道炎が関与していることが考えられます。お薬で改善する例がおおいので耳鼻科や消化器科の受診をおすすめします。