2010.9.25 札幌 北海道ストーマリハビリ研究会 特別講演
原林 透 当施設
進行性膀胱がんの治療
膀胱がんと一口に言っても、患者にとっても泌尿器科医にとっても非常に幅の広い病気である。血尿で受診し膀胱内に5mm程度のイソギンチャク様の乳頭状腫瘍が見つかり一度の経尿道的手術(TUR)だけで生涯再発なく暮らしている者もあれば、膀胱全摘と尿路変向をすすめられ幾多の術後合併症をのりこえていく者も、全身化学療法に賭けるしか手がない者もある。
日本における膀胱がんの罹患率は、7.6/10万人/年、死亡率は2.2/10万人/年であり、男性の頻度が女性の4倍に達する(2002年)。膀胱がんの約70%は、粘膜下層までにとどまるがん(T1以下)であり、われわれ泌尿器科医の得意とする経尿道的手術(TUR)で膀胱を摘出せずにコントロール可能である。これらは、従来「表在性膀胱がん」とよばれていたが、粘膜下層浸潤癌を含み表在癌とはいえない経過をしめすグループがあることから、近年は「筋層非浸潤性癌」とよばれるようになった。
筋層非浸潤性膀胱がんのうち高リスクのものは、BCG注入療法を補助療法とした膀胱温存療法が主流であるが、再発性のものは膀胱全摘除術が推奨される。筋層以上の浸潤癌(T2以上)においては、膀胱全摘除術が第1選択である。以前は大量の輸血と半日の時間を要する大手術であったが、近年は止血デバイスの改良、手術手技の向上、腹腔鏡の導入などもあり、出血少なく時間も短縮された。回腸導管造設術が現在も標準的尿路変向であるが、高齢者、女性にも自然排尿型新膀胱造設術の適応を拡大している。これら多岐にわたる治療法を選択する上で、治癒とQOLについて患者さんとの十分な話し合いが必要である。不十分な理解と過度の期待は術後QOLを低下させる。本講演では、これら外科的治療だけでなく、治癒率を向上すべく導入した術前抗がん剤化学療法、抗がん剤併用膀胱放射線療法などについても解説を加える。