2011.4.21 名古屋 第41回腎癌研究会 口演
安住誠、池城卓、三浪圭太、原林透、永森聡 当施設
スニチニブ投与中にイレウスを発症した転移性腎細胞癌の1例
【緒言】スニチニブは2008年より投与可能となった抗癌剤で、血管新生に関与するVEGF受容体と腫瘍増殖に関与するPDGF受容体など複数の受容体を標的とするマルチチロシンキナーゼ阻害剤である。スニチニブ投与に伴う主な副作用として、手足症候群、高血圧、血小板減少、白血球減少、甲状腺機能低下、下痢、心機能低下などが知られている。今回我々は転移性腎細胞癌に対しスニチニブ投与後にイレウスを発症した症例を経験したので報告する。【症例】72歳、男性。健診にて肺病変の指摘を受け経過観察されていたが、原発性肺癌も疑われたため胸腔鏡下肺部分切除術が施行された。病理診断はclear cell carcinoma, G2であった。その後の精査にて、左腎下極に43×45mmの腫瘍および左精巣に内部不均一な腫瘍、両側副腎腫瘍を認めた為当科紹介となった。重複癌も疑われた為、まず左高位精巣摘出術を行ったが、病理診断はclear cell carcinomaであった。左腎癌、多発肺転移、リンパ節転移、左精巣転移、両側副腎転移の診断で2009年5月よりソラフェニブ800mg/dayで投与開始した。2009年11月労作時息切れあり、胸水貯留を認めた為、胸腔ドレナージを施行した。細胞診はclassXであった。CTでは右胸腔に隔壁形成されており、胸膜転移と診断した。2010年1月よりスニチニブ50mg/dayで投与開始したが、Grade3下痢、血小板減少、Grade2腎機能障害のため、22日目より休薬した。2コース目は25mg/dayで投与再開するも、5日目より再度下痢出現、10日目よりGrade3食欲不振、12日目腹部レントゲンでニボー形成、CTで小腸の拡張、ガス像著明、大腸も全周にわたり浮腫状で、壁肥厚を認めた。明らかな閉塞部位不明で、腹腔内の転移病変なく、スニチニブ投与によるイレウスと診断した。スニチニブ休薬、イレウス管挿入による保存的治療で軽快した。その後IFNα300万単位×5/週を開始するも、2010年3月脳転移が出現し、γナイフ治療施行するも、次第に病勢進行し2010年5月死亡した。【考察】分子標的薬の使用経験の蓄積により、特徴的な副作用の理解が深まり、それらに対する対策もある程度確立されてきているが、イレウスはスニチニブ投与に伴う稀な副作用であり、留意が必要と考えられた。