TOP ー NEW  ー 20121110

市民のためのがんフォーラム 開催

がんセンターホールにて開催しました。

原林 透

前立腺がん 診断と治療 経過観察療法、手術療法について

 前立腺癌の発生は年々増加を続け日本では2007年時点で第五位の罹患率となりました。 前立腺癌では自覚症状に特別なものはなく、血中のPSA(前立腺特異抗原)測定が早期発見に有用な検査方法です。世界でもっとも前立腺癌検診が普及しているチロル地方では、前立腺癌死亡率の減少が認められました。日本でもどんどん検診が拡まるとよいと思われるのですが、日本では検診は普及せず、前立腺癌による死亡は増加傾向のままです。新聞には、「厚生労働省は前立腺癌PSA検診を推奨しない(2007年)」「早期前立腺癌、手術しなくても死亡率に差なし(2012年)」などという頭を悩ませるような報道もあります。これはどうしてでしょうか。

 それは、前立腺癌が非常に経過の長い緩徐な経過をたどる癌であるためです。前立腺の自然史の研究では、前立腺癌細胞が体内に発生してから臨床的に発見される大きさになるまで30年以上かかるとされています。潜在性の前立腺癌(ラテント癌)を調べると、存命中に進行することのなかった小さな癌が30%の高令男性に発見されました。

 PSA検診で発見された転移のない前立腺癌では手術、放射線やホルモン療法により、高い治療効果が得られ、ほとんど癌で死亡することはありません(10年で1-2%程度)。手術が唯一無二の治療ではありません。どの治療を選ぶかは、各人の年令、合併症、生活パターンをよく考慮する必要があります。一方、骨転移などに進行した前立腺癌では、治療はホルモン療法などに限られてしまいますし、他の癌に比べると生存期間が長いとはいえ薬物の有効期間には限界があります。早期発見されれば多くの選択肢があります。

 前立腺癌では、組織生検による悪性度判定(GS)、診断時PSA、局所進行度(T)により癌の拡がり方がある程度推測され、低、中、高リスク癌に分けられます。低リスク癌ではどの治療を受けても非常に予後がよいため、手術、外照射にくわえて、小線源埋め込み内照射、監視療法も選択肢となります。

 手術療法では、腹腔鏡手術の導入により出血が少なく回復の早い治療が可能となりました。拡大した視野でこれまでに知られていなかった膜構造に基づいて細やかな手術が行えるようになりました。昨年から精密な動きが可能なロボット支援手術も保険適応となりました。しかしながら、数十%に勃起障害、数%に尿失禁などの合併症が生じてしまいます。

 低リスクの腫瘍の小さな癌では、先に述べたラテント癌を検出してしまっている可能性があります。監視療法では、過剰な治療を避けるためにすぐに治療することなくPSA検査と定期組織生検で進行しないことを確認しつつ経過を見ます。悪化がみられた場合は、手術か外照射を施行しますが、安定していればそのまま経過を見ることができます。

 一方、高リスク癌では従来の手術・放射線療法では半数程度しか癌をコントロールできません。前立腺を一層ひろく摘出し、より広範囲のリンパ節を摘出することやホルモン療法を追加することで癌死率が20%低下することが報告されています。

 このように早期前立腺癌といっても、広範囲の性質の癌を含んでいます。あわてることなく、十分に検討した上で納得できる治療を受けて下さい。当院では、すべての方法を準備し患者さんの状況にあわせた治療を行っています。