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前立腺癌に対するI-125

密封小線源永久挿入療法(ブラキテラピー)の手引き

 

独立行政法人/国立病院機構

北海道がんセンター

泌尿器科


 

【小線源療法とは】

 

 小線源療法とは小さな放射線源 を、治療する腫瘍や臓器に挿入して行う放射線治療で、英語ではブラキテラピー(brachytherapy) と呼ばれています。このような放射線の内照射療法はイリジウム(Ir)などエネルギーの高い高線量率の線源を用いることにより他の臓器の腫瘍では以前から 行われていますが、それはいずれも期間を限って線源を挿入するもので、線源を入れている間は患者さんは放射線管理区域に隔離となり、規定の線量が照射し終 わったら線源を体から取り出すことが必要です。

 これに対し、前立腺癌に行う低線 量率のI-125 シード線源を用いた治療は、弱いエネルギーの小さな線源を数多く前立腺内にまんべんなく挿入し、時間をかけて前立腺全体にゆっくりと放射線をゆきわたらせ るもので、挿入した線源の放射能は約1年間で減衰するため体の外には取り出す必要がなく、永久挿入となります。挿入の方法は直腸に超音波プローブを挿入す る経直腸エコーを用いて、前立腺の超音波画像を見ながら会陰部から前立腺内に針を刺してシード線源を挿入するもので、切開をせずに正確な位置に線源を挿入 することができます。

 この方法は次の項目で述べるよう な特徴があり、日本では2003 年7 月からI-125 シード線源の永久挿入が医療法上および放射線障害防止法の認可・規制解除がなされ、この治療が施行可能になりました。

 

【前立腺癌小線源療法の特 徴】

 

1. 周辺臓器の放射線障害が少ない

 

 早期の前立腺癌は癌の存在部位を 明確に把握することが難しく、放射線治療を行うときは前立腺の輪郭にそって前立腺全体に照射を行わなければなりません。体の外から放射線を照射する外照射 では、複雑な形態を呈しかつ時々刻々移動する前立腺に対して正確な照射を行うことは大変難しく、高度な技術を要します。このため通常の外照射療法では周囲 組織への被爆が無視できず、放射線に弱い直腸や膀胱の粘膜などに放射線障害が起こることがあります。ところがI-125 による小線源療法では、前立腺の形態・輪郭通りに内部には十分な量の照射を行う一方で前立腺周囲への照射量は少なくすることができ、直腸や膀胱の放射線障 害を少なくすることができます。

 

2.性機能障害が少ない

 

 前立腺癌の治療では、内分泌療法 でも前立腺全摘除術でも、男性の性機能(勃起能)をある程度犠牲にせざるを得ないのが実情ですが、小線源療法では影響は皆無ではないものの、他の治療法に 比べて性機能が維持されやすいとされています。

 

3. 体力の負担や入院期間が少ない

 

 線源の挿入は麻酔が必要で1〜2 時間の手術に準じた操作を要しますが、全摘手術に比較すると負担は軽度なので、手術よりも高齢の方や合併症のある方でも治療可能な場合があります。入院期 間は検査と準備のために3日間、その1ヶ月後に実際の治療(線源挿入)のために5日間と、他の治療に比べ短期間の 入院ですみます。

 

【前立腺癌小線源療法の欠 点:治療効果の限界】

 

 この治療は弱いエネルギーの放射 線を用いて前立腺輪郭に沿った限られた領域のみに照射をするために副作用が少ないことが特徴ですが、このことが一方でこの治療の限界、欠点でもあるので す。それは針生検やCT、MRIなどの画像診断で把握しきれなかった悪性度の高い癌細胞が存在していたり、実は臨 床診断をこえた予想外の癌の進展がおきていたりした場合、また癌細胞の中には放射線を照射しても死滅しないものがある可能性もあり、その場合には治療効果 が不十分となり再発をきたす可能性があります。このため小線源療法による治癒率は手術とほぼ同等を期待するものの、手術以上ではあり得ないと考えられま す。このため、次に述べる治療の適応を十分に検討して厳守する必要があります。

 

 

【治療の適応】

 

1.転移・浸潤がなく、悪性度の高 くない低リスク癌が適応

 

 被膜外、精嚢、膀胱などへの浸潤 が無く、リンパ節や骨、もしくは他臓器への転移が無いT1c〜T2、N0、M0の前立腺癌で、PSAが 10ng/ml以下、針生検で得られた癌の悪性度(グリソンスコア)が3+3までで、癌が陽性のコア数が少ない低リスク癌がよい適応となります。このほ か、グリソンスコアが3+4の場合、またはPSAが10〜20ng/mlの場合にも適応を考慮することができる場合があります。

 なお、当院では小線源のシード挿 入単独療法を原則としており、グリソンスコアが4+3以上やPSAが高値の高リスク癌は一般に手術療法のほうが望 ましいと考えています。このため高リスク癌に対する外照射との併用療法は当院では行っていません

 

2.前立腺体積が40cc 以下

 前立腺体積が40cc以上ある大きな前立腺は、挿入する線源の個数が多くなり規定の放射能総量を超えてしまうことや、前立腺のすみずみま で線源を挿入することが困難になったりするために、治療が困難です。ただし事前に3〜6 ヶ月間ホルモン療法を行って40cc 以下まで縮小することができた場合には、治療可能です。

 

3.次のような場合にはこの治療は できません。

・ 過去に前立腺肥大症の手術(TURP)を行っている場合。

・ 下肢を挙上して開脚する線源挿入の ために必要な体位がとれない場合。

・骨盤の変形やなどで線源の挿入が 困難な場合。

・ 骨盤部への放射線治療の既往がある 場合。

・前立腺の石灰化が著しい場合。

・アスピリンやワーファリン、パナ ルジンなどを服用しており、一時中止ができない場合。

 

・前立腺全摘手術後の再発 や、放射線治療後の再発例はこの治療の対象になりません。

 

【治療の実際】

 

治療前の準備:通常3日間の入院で行いますが、場合により外来的に行うことがあります。

 

 実際の治療の約1ヶ月前に治療の準備を行います。前立腺癌の病期診断と尿路全般の異常の有無を確認するためのCT、骨転移がないことを確認 する骨シンチなどにより適応を確認した上で、前立腺体積を測定するための経直腸エコーと治療のためのプラニングを行います。このデータをもとにI-125 シード線源の使用線源数を決定します。また治療についてのご説明を行い、治療同意書、承諾書、現在の生活の質、すなわち排尿・排便状態、性機能などをうか がうための質問用冊子、および普段の生活において長時間接する人(奥様、他の同居の家族、ヘルパー、職場の人など)との過ごし方や通勤に関する調査票をお 渡しいたします。

 

治療入院:通常月曜日から金曜日までの5日間で行います

 

月曜日:泌尿器科病棟に入院しま す。麻酔をかけるために必要な入院時一般検査を行い、 

    治療の同意書・承諾書を回 収させていただき、排尿障害などの問診票や

    QOL関連調査票などを記入してもらいます。

火曜日:麻酔医の診察を受けて下さ い。また翌日の線源挿入のためのオリエンテーション

    を行います。

水曜日:通常お昼過ぎ(12時45分入室)から治療を行います。朝から絶食し点滴を受け

    てお待ち下さい。浣腸など の前処置を行います。

 

【線源の挿入】

 

 当院では線源の挿入は手術室で行 い、麻酔は腰椎麻酔または全身麻酔を用います。尿道にカテーテルを留置し、足を挙上し開く砕石位という体位をとり、肛門から直腸内に超音波プローブを挿 入、前立腺の立体的画像をコンピューターに取り込み、計算された線源の配置(プランニング)通りに会陰部から針を刺して線源を前立腺内に挿入していきま す。通常、刺入する針の数は20〜30本、挿入する線源の数は50〜90個ほどになります。治療に要する時間はお よそ2 時間程度です。

 超音波装置の操作と針や線源の刺 入は泌尿器科医が担当し、コンピューターの操作やプランニングは放射線科医が行うことが多く、実際の治療はこのように両科の医師が共同で進めていくことに なります。

 終了後は放射線科病棟の放射線管 理区域に指定されている特殊な病室に一晩入室していただきます。これは挿入した線源が安定し、脱落したりしないか観察をするように法規上定められているか らです。すなわち1日だけ放射線科病棟に転科するかたちになります。翌朝までは起きあがらずにベッドの上で安静を 保っていただきますが、翌日からは特に制限無く歩行、食事等が可能になります。

 

木曜日:放射線科の医師によりCTなどの術直後評価を施行後、泌尿器科病棟に戻ってい

    ただき、尿道のカテーテル を抜去します。このとき、針をたくさん刺したために

    前立腺がむくんでいるため 尿が出にくいことがあります。   排尿障害改善剤

    (ハルナールやアビショッ トなど)の服用や増量で対応します。 また排尿時の 

    痛みや頻尿も多くの場合に みられますが、徐々に軽減します。

    尿中に線源が排出されるこ とが稀にありますので、尿は一度しびんに取ってから

    ガーゼでこして蓄尿びんに あけて下さい。シードが見られたらそのままにして、

    看護師に伝えて下さい。

金曜日:問題となるような症状がな ければ、退院となります。ワーファリン、パナルジン、

    アスピリンなど出血に影響 する薬は1 週間後から再開して下さい。また線源挿

    入前にホルモン療法を行っ ていた方は、治療後は中止することになります。

 

線源挿入後の状態

【線源挿入後の経過観察】

 

 挿入した線源からはその後約1年かけて規定の放射線が前立腺内に照射され、癌細胞は約1〜2 年の間に徐々に死滅していくと期待されます。線源挿入後の通院は、まず1 ヶ月目に来院していただき、レントゲン写真とCT スキャンにより最終的な線源の配置を確認し線量分布を評価します。その後は状態が落ち着いていれば通常3 ヶ月毎の通院となり、PSAの推移をみることで経過観察を行っていくことになります。泌尿器科と放射線科の外来予約カードを差し上げますので、指定された 日に通院して下さい。

 

【合併症】

 

早期合併症

 治療後早期には前立腺がむくむた めに排尿障害がおきやすく、頻度の高い合併症で す。線源挿入直後は針を多数刺入したために前立腺が腫大しますし、また治療後2〜3ヶ月目には放射線の初期効果で 前立腺の細胞や組織は一時的にむくみがおこるとされているからです。3ヶ月をこえると前立腺は縮小傾向を示すことが期待されますので、排尿障害も改善する ことが多いようです。対策は上にのべたように排尿障害改善剤(ハルナールやアビショットなど)の内服です。稀に(5%くらい)全く排尿ができなくなってし まう尿閉をきたすことがあり、その場合には排尿の管を留置するか、自己導尿法を習得していただくことになりますが、多くは一時的です。

 このほか、血尿や血精液症、皮下 出血などはほとんどの場合におこります。また会陰・肛門部痛、頻尿、皮下出血、肛門出血・血便などがみられることがあります。また線源が挿入後、血流に のって肺などへ移動することがあり、X 線写真などで写りますが、そのような場合でも問題になることはおきないとされています。

 

晩期合併症

 治療後数ヶ月以上経過してからお こる晩期合併症は放射線の組織障害によって起こってくるものです。尿道への放射線の影響により尿道狭窄をおこし、尿道を広げるような治療を要することが稀 にあります。直腸は前立腺に接しており、直腸に障害が生じると、痛み、出血や潰瘍や膿瘍ができたりします。薬剤で徐々に回復することが多いのですが、稀に 一時的な人工肛門の造設が必要になることもあります。

 

【治療後の再発】

 

 治療が有効であった場合にはPSAは1 年から数年で徐々に減少し、ある程度の所で安定します。しかし放射線の効かない細胞があった場合や、放射線が充分に行きわたらなかった場合には再発をきた すことがあります。再発の監視には定期的にPSA 値を見ることで行うことができ、局所再発や転移が生じた時にはほとんどの場合にPSA 値が上昇してきます。再発には前立腺内や近傍におこる局所再発と、前立腺から離れた部位に再発する遠隔転移がありえます。

 

再発時の対策

 治療後は前立腺には限界近くの線 量の放射線照射が行われていますので、小線源療法後に局所再発をきたした場合に放射線の追加照射はできません。また放射線照射後の組織にメスを入れて無理 に手術すると大きな合併症が生じることが多いため小線源療法後に前立腺を摘出する手術を後で行うのも原則として不可能です。そのため再発時の治療には内分 泌療法が一般に用いられます。ホルモン療法は局所再発でも転移でも有効です。ホルモン療法は抗アンドロゲン剤やLH-RH アゴニストの注射を用いるのが一般的で、小線源療法後の再発例においても長期間の効果が期待できます。

 なお、治療後1〜2 年頃に再発でなくてもPSA 値が一時的に上昇する現象が見られることがあるとされています。これはバウンス現象と言われ、原因は不明ですが数ヶ月のうちに自然とPSA 値は下がってきますので、このようなPSA 値の上昇があっても再発とは限りません。

 

【線源挿入後の注意】

 

 線源は永久挿入ですが、その放射 能は非常に弱く、約2ヶ月ごとに放射能の量は半分に減少し、1 年でほとんど0 になります。この線源による放射線の周囲の方への影響はほとんどなく、人がいつも自然に受けている放射線量よりも低いとされており、安全であることが確認 されています。たとえば満員電車や仕事場、社交ダンスなどでも周辺の通常の大人の方への影響は無視してよい程度とされています。ただし、赤ちゃんなど小さ な子供さんを膝の上に抱いたり、赤ちゃんがおなかの中にいる妊婦さんのそばに長く座ったりすることは避けて下さい。

 

 なお、ごく稀ですが、排尿時に線 源が排泄されることがあります。1 個の線源から出る放射線は微量で、放置しても実際には問題を生じませんが、もし線源をうことができればビンなどの容器に入れ、担当医に連絡して下さい。治 療後1ヶ月したら性行為は問題ありませんが、精液中に線源が排泄されることもあるので1 年間はコンドームを使いましょう。

 

 線源挿入後1 年間は「治療カード」を携帯して下さい。また、その間に何らかの手術が行われる場合には、手術を担当する医師から当院の担当医に連絡をするようお願いして 下さい。

 

 なお、万一、治療後1 年以内に突然の事故や急病で死亡された場合には、放射線源を体内にそのままにして火葬することができません。法規制上、ご遺体を解剖して前立腺ごと線源を 摘出する必要がありますので、ご家族の方は担当医に必ずご連絡下さい。

 

 以上のようないくつかの制限は、 線源挿入後1年間たてば放射能は失われるので、すべて解除されます。線源はチタン製の多数の小さな金属片として体 内に残りますが、放置しても長期にわたって弊害を起こすことはないとされています。

 

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