がん講演会(過去の講演会の内容)

第21回 北海道がん講演会

『がんに対する低侵襲手術〜小さな傷で治せる』
日 時: 平成15年6月8日(日)午後1時30分〜午後4時
場 所: 札幌市中央区北2条西1丁目 ホテルニューオータニ4階 朝日ホール

1. 肺癌に対する低侵襲手術と縮小手術

呼吸器外科医長 近藤 啓史

 私たちは平成5年から厚生省がん特別研究班の中に入り、肺癌に対して、小さな傷できちんとした肺癌の手術ができるかを研究、検討をしてきました。その結果、開胸では30cm位の傷を開けなければ手術できなかったのが、3〜4cm、2〜3cmの傷2カ所で出きるようになり、さらにその傷でリンパ節もきれいに取ることが可能となりました。このことを専門用語では胸腔鏡下肺葉切除、肺門縦隔リンパ節郭清と言います。成績も開胸と同じか更に治る人が多いという結果が出ています。患者さんにとっては侵襲(障害の程度)が小さい、免疫力を下げない低侵襲手術と言えます。すなわち外科医にとっては難しい手術ですが、患者さんには「やさしい」手術といえます。また大きさ2cm以下の肺腺癌の人の中には早期の(初期の)肺癌の場合があり、肺を丸ごと(肺葉)取らないで、小さく肺を取る研究・検討も行ってきました。肺癌がCT検査で淡いすりガラスのような陰影であれば、大きく取らないで肺の一部を切除すると治ります。今まで約50人に小さな切除(縮小手術)をしましたが、ほぼ100%の人が治っています。これら肺癌外科治療の最先端についてビデオを交えながら解説します。

2. がんに対する低侵襲手術〜小さな傷でも治せる!
─ 婦人科悪性腫瘍に対する内視鏡下手術の応用 ─

産婦人科医師 齋藤 裕司

 近年、手術機器と技術の進歩により、多くの外科的疾患が内視鏡下手術で行われるようになってきました。産婦人科領域でも当初は広く良性疾患に適用されていましたが、徐々に悪性腫瘍へも応用されつつあります。今回、手術の実際の映像もご覧いただきながら、婦人科悪性腫瘍における内視鏡下手術のメリットを中心にお話させていただきます。

 婦人科領域での内視鏡下手術では、通常臍上ないし臍下に1.5cmほどの皮膚切開をいれ、そこから内視鏡カメラを挿入します。さらに左右下腹部2カ所に5mm〜1.5cmの皮膚切開を加え、そこから長い鉗子などを挿入して手術を行います。従来の開腹手術に比べてのメリットには、1)手術創が小さくそのため術後の痛みが軽く、入院期間が短い、2)術後の体力の回復が早いので、術後の治療の遅れを防げる、3)傷が小さいので、美容的に優れている、4)出血量が少ないので、輸血によるさまざまな合併症が防げるなどがあります。

 現時点での適応疾患は、比較的早期の子宮癌や卵巣癌、また進行した癌に対する診断的な内視鏡下手術などですが、今後徐々に内視鏡下手術のメリットが市民の方々に認識されニーズが高まれば、手術機器や技術の進歩とともにその適応も拡大していくものと考えられます。

3. 腎臓癌に対する腹腔鏡下根治手術:小さな傷で腎臓を摘出する

泌尿器科医師 柏木 明

 泌尿器科では膀胱癌や前立腺肥大症を治療する時、お腹を切らない「経尿道的切除術(TUR)」という内視鏡による手術法が古くから広く行われてきました。これに対し、お腹の奥深く(胃や腸の背中側で後腹膜腔と呼ばれる場所)にある腎臓や副腎を摘出するにはお腹や脇腹を20〜30cmほど切ることが不可欠でした。

 1987年にフランスの外科医が腹腔鏡による胆嚢摘出術に成功して以後、泌尿器科でも1992年頃から腎臓や副腎をお腹を切らずに内視鏡を差し込んで体外操作で摘出する技術が開発されました。当初は良性の病気のみに適応を限るべきとされていましたが、最近になって癌に対して行っても病気の根治性を損ねないことが確認され、現在では直径が7cmくらいまでの腎臓癌はこの腹腔鏡下手術で摘出が可能になりました。

 現在当院では、腎臓癌の約半数、副腎腫瘍や腎盂尿管腫瘍の大半がこの腹腔鏡下摘出術で根治手術を行っています。特にこれらの臓器は後腹膜腔にあり、後腹膜を炭酸ガスで拡張して手術の視野をえる「後腹膜到達法」が可能で、患者さんの負担や術後の痛みがより少なく、早期の退院と迅速な社会復帰が可能な手術法として今後さらに広まっていくと考えられます。このような最近の「お腹を大きく切らずに腎臓の癌を根治する手術法」についてご紹介したいと思います。