がん講演会(過去の講演会の内容)

第23回 北海道がん講演会

北海道がんセンターの医師による講演
『がん診療の最近の話題』
日 時: 平成17年7月2日(土) 午後1時30分〜午後4時
場 所: 札幌エルプラザ3階ホール(札幌市北区北8条西3丁目)
※JR札幌駅北口より徒歩3分

1. 消化管のがん

消化器科医長 高橋 康雄

 消化管のがんとは、食堂から始まり胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門までの間(消化管)に出来るがんです。その主なものとしては、食道がん、胃がん、大腸がんがあり、いずれも死亡数の多いがんです。これらのがんは、内視鏡的に直接観察が可能であることから、機器の進歩と技術の向上もあり早期発見により内視鏡的に治療が可能になって来ています。ただそのような段階では殆ど症状は出ませんので定期的な検診が非常に重要になります。食道がんでは、内視鏡的に治療できない状態で発見されたとしても、放射線に対する感受性が高いため抗がん剤を組み合わせることにより手術に匹敵する治療効果が得られるようになってきています。進行した胃がん、大腸がんにおいては手術が主体となりますが、最近色々な新しい抗がん剤が出ており、手術で完全に直らないもの、手術が出来ないものに対しても、それらをうまく組み合わせることにより延命が得られるようになってきています。

 本講演ではこれら3つのがんについて、その診断と治療についてお話し致します。

2. 肝胆膵のがん

消化器科医師 藤川 幸司

 肝胆膵のがんはわが国のがん死亡順位の上位を占めており、進行がんには化学療法が選択されますが、効果はあまり期待できず、早期に発見して根治的治療を行うことが重要です。肝細胞がんの90%以上はB型やC型肝炎ウィルスが原因であり、多くは肝硬変から発症するため、治療法選択に際し、がんの進行度と肝予備能力の総合評価が必要です。早期であれば外科的切除だけでなく、内科的局所治療…経皮的エタノール注入療法(PEIT)、経皮的ラジオ波焼灼法(RFA)肝動脈塞栓術(TAE)、等…でも根治可能の場合があります。一方胆道(胆嚢・胆管)がん・膵がんは外科的切除のみが根治的治療法であり、抗がん剤での治癒は困難で、切除不能例は予後不良です。胆嚢がんは通常無症状ですが、健診のエコーで早期に発見されることもあります。しかし胆管がんや膵がんは黄疸などの症状で発見され、すでに進行していることがほとんどです。進行例に対する治療は近年、新しい抗がん剤の登場や腫瘍によってひきおこされる黄疸などの合併症に対する内科的インターベンション治療の進歩によって、生活の質(QOL)の向上や生存期間の延長が得られるようになってきました。本講演では診断と内科的治療法について紹介します。

3. 皮膚のがん 〜拡大鏡(ダーモスコープ)によるメラノーマの検査〜

皮膚科医長 加藤 直子

 最近、色のついた皮膚病変の鑑別にダーモスコープという拡大鏡を用いた診断法が普及してきました。これは、色素性皮膚病変部に超音波検査などで使われるゼリーを塗り、懐中電灯程度の大きさのダーモスコープのレンズ部を押し当てて観察する非侵襲的診断法です。ダーモスコープの内部には電球が組み込まれています。ゼリーにより角層(皮膚の一番上のいわゆる垢の層)や表皮(いわゆる皮膚)での光の乱反射が防止され、表皮の透過性が高まり、表皮やその下の真皮に存在する色素や血液などの分布状態を明るい画像で良く観察することができます。拡大率は10倍なので、肉眼ではわからないさまざまの色素沈着パターンを認識することができます。レンズの中央にある目盛りで病変の直径を測ることもできます。皮膚には全く傷をつけないので痛みはありません。この方法を用いることにより、色素細胞系病変(メラノーマ=悪性黒色腫、母斑=ほくろ)や非色素細胞系病変(基底細胞がん、脂漏性角化症、血管性・出血性病変)の鑑別診断の精度が向上し、その後の治療に役立っています。たとえば、メラノーマを心配して来院した患者さんでも、ダーモスコープでほくろに特徴的な所見が出た場合は、切除せず経過を観察することが可能です。しかしダーモスコープを用いても鑑別が困難な症例が存在することも事実です。今回はこの診断法について紹介し解説します。

4. 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍外科のがん

耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍外科医長 永橋 立望

 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍外科のがんは、頭頸部腫瘍と呼ばれており、東京の国立がんセンターや他の病院では、耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍外科ではなく、頭頸科や頭頸部外科という部門で治療をしているところもあります。脳や眼、以外の頭頸部の腫瘍の診断治療をしています。舌がんなどの口腔がん、声がれでみつかりやすい喉頭がんをはじめ、咽頭がん、唾液腺がんなどがあります。また当院では甲状腺がんも耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍外科で手術しております。

 いずれの部位においても早期発見が大切ですが、治療のポイントとして機能温存が最近、特に注目を集めています。頸部や顔面のように狭い所に重要な機能を持つ神経、筋肉と治療対象の腫瘍がある部位では、完全摘出をめざし腫瘍周囲の安全域を拡大し切除しますと、発声、嚥下など日常生活にて重要な機能を持つ器官に障害を与えたり、顔貌など整容的な点で問題が発生します。患者さんの中には、術後の発声不能や顔貌の変化などを恐れ、治療に逡巡するかたも少なからずおります。そのような観点も含め当院では、手術においては、可能なかぎり神経などを温存したうえに再建術を行い術後機能を維持することを目指しております。また、進行がん以外の症例におきましては、放射線科と共同のうえ抗がん剤と放射線を併用した機能温存を目指した集学的治療に積極的の取り組んでいます。

 頭頸部腫瘍は、発がん因子として飲酒、喫煙との関係が深く、生活習慣に起因するところも少なくありません。それゆえ、頭頸部がんは、一度治癒しても再び異なる部位にがんが発生する多重がんが発生しやすい部位でもあります。そのため、今現在、生活習慣の変更や定期的検査などの取り組みなどが注目されています。

 以上の点と簡単な頭頸部腫瘍の見分け方について講演する予定です。