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早期癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)のご紹介 [診療内容]

消化管がんを根治させるための一般的な治療法は外科切除ですが、無症状の方に発見される早期がんのなかには低侵襲な内視鏡治療で根治させることが可能な病変もあります。治療による侵襲について、例えば胃がんで標準的な外科切除がなされると胃の2/3が切除され術後は胃が1/3程度になりますが、内視鏡による粘膜のみの切除であれば術後も胃の大きさはほとんど変わりません。

内視鏡治療適応の原則は二つあり、まずリンパ節郭清を行わない局所のみの治療方法ですのでリンパ節転移を来している可能性がきわめて低いことが重要な条件になります。 もう一つの条件は技術的に一括切除が可能であるということで、この点については新たな技術の開発によって適応となる病変は拡げられる可能性があるということになります。内視鏡治療として従来から行われているEMR(内視鏡的粘膜切除術)では切除が可能な病変の大きさや部位に制限があり、粘膜下層に線維化を伴う病変の切除は困難であります。このため“リンパ節転移の可能性は低いけれど技術的に内視鏡で切除することが困難である”というような病変がしばしばありました。

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は高周波ナイフを使って病変周囲の粘膜を切開し、さらに粘膜下層のレベルで病変を剥離し切除する手技です。EMRと異なり切除範囲を思い通りに決めることができ、大きさにも制限がなく、粘膜下層が線維化で硬い病変も切除が可能です。1990年代後半に開発され、学会での報告などを通して広く認知されていき、2006年4月に胃、2008年4月には食道に対するESDが健康保険で治療可能となりました。大腸については2009年に高度先進医療として承認され、2012年4月にようやく健康保険で治療可能になりました。

治療適応は臓器によって少しずつ異なり、それぞれのがん治療ガイドラインで基準が示されています。術前検査によって病変の深達度などを推測し内視鏡治療の適応を決定しますが、最終的な病理結果とはやや乖離する場合もあり、基準より深い浸潤や脈管侵襲がみられた場合には追加外科切除(食道がんは化学放射線療法の場合もあります)をお勧めすることになります。

切除に要する時間は大きさや線維化の程度、術中出血の程度によって幅があり、30分以内から数時間を要する場合もあります。治療中は鎮静剤や鎮痛剤によってほとんどの患者さんは大きな苦痛なく、あるいは眠っている間に治療が終わります。術中・術後の主な偶発症は出血や穿孔です。術中出血のほとんどはその場で止血可能ですが、術後に出血を来し緊急内視鏡を要する場合が数%あります。穿孔も数%の方にみられ術中に内視鏡によって塞げることが多いですが、緊急手術を要する場合も稀にあります。入院は10日程度して頂いており、術後2日目から食事を開始、退院後少なくとも1週間は激しい運動や飲酒などは控えていただいておりますがほぼ日常生活に支障はありません。

当科では生活の質を下げずに切除が可能なESDを中心とした内視鏡治療によって多くの患者さんを治療したいと考えております。そのために重要なことは早期発見であります。内視鏡治療可能な早期がんの多くは無症状であり、症状が出てから来院した患者さんでは内視鏡治療は難しい場合がほとんどですので、定期的な検査をお勧めしております。

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